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札幌地方裁判所 昭和49年(ワ)1087号 判決

原告

成田常忠

右訴訟代理人

大島治一郎

被告

北海道

右訴訟代理人

斎藤祐三

右指定代理人

井上豊秀

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一、原告

「被告は原告に対し、金二〇〇万円およびこれに対する昭和四九年一一月一六日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、仮執行の宣言

二、被告

主文第一、第二項と同旨の判決、ならびに、担保を条件とする仮執行免脱の宣言

〈以下省略〉

理由

一不法行為としての侮辱の成否について

請求原因(一)の事実のうち、原告がブロツク建築業を営んでいたものであるが、昭和四九年四月二三日、札幌南警察署警察官によつて逮捕され、その後引き続き勾留されていたこと、右勾留中の同月三〇日午後四時三〇分ころ、原告において、北海道警察本部司法警察員辰己光男から、同署防犯課補導室において取調べを受けていたことは、いずれも当事者間に争いがない(なお、〈証拠〉によれば、原告の逮捕罪名は、北海道青少年保護育成条例違反並びに児童福祉法違反であることが認められる。)。

〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。すなわち札幌南警察署は、「石山地区で暴力団を含む高校生売春が行なわれている。」との情報を得て捜査を進めた結果、家出少年として補導した甲野花子〈仮名〉の供述から、原告に対する、児童福祉法違反(右甲野を被害者とする)および北海道青少年保護育成条例違反(右甲野、および、少年乙山月子〈仮名〉をそれぞれ被害者とする)の事実が発覚し、さらにその捜査の過程で、同女らを被害者とする児童福祉法違反の嫌疑が明らかとなつたため、右各被疑事実について捜査を進め、昭和四九年四月三〇日までの間、原告を取調べたほか、右甲野、乙山およびA、B、C、D、E、F、らに対する取調を行なつた。それまでの取調において、原告は、右甲野、乙山に対しそれぞれ性行為を行なつたことおよび同女らをしていわゆるレスビアンと称する性交類似行為をさせたことは認めたものの、同女らの年令についての知情、すなわち、事件当時右甲野は一五才であり、右乙山は一六才であつたことについては、「その当時若い感じのする女だけど二〇才を超えていると感じておりました。従つて、今でも花子の本当の年令は判りません。」とか「私が月子とはじめて会つた時年令が三〇才位と思つておりました。付き合つているうちにもつと若いと言うことが判り、それでも二〇才以上だと思つておりました。」と供述してこれを否認し、また右被疑事実に関連して原告に疑いの持たれていた同女らの右性交類似行為の場面を写真撮影したのではないかとの点についても、「カメラにははじめからフイルムが入れてありませんでした。」と述べてこれを否定していた。ところが、原告の取調と並行して行われていた関係人らに対する取調において、被害者である甲野、乙山は、原告は同女らの年令をよく知つていたと供述し、これを裏付ける事実として、原告と甲野とは同じ石山町の住民であり、原告は、同女が中学校を卒業したばかりで、原告と交際していた当時は高校一年生であつたことを知つていたし、原告は、乙山が、当時原告の経営していた会社に就職しようとして面接に来た際、同女の生年月日(昭和三一年九月一三日生)が記載された履歴書を見ながら「未だ一六才ですね。」と同女に言つていたと供述し、さらに原告から甲野を紹介されたA、Fらは、その時の甲野の印象について、一見してまだ子供つぽさが残つており、原告から聞かされていた高校三年生というのより年令が若いのでないだろうかと感じたとか、見た時、一七、八才位に見えた、原告から定時制高校の生徒と聞かされていたので、一六、七才だろうと思つた等それぞれ供述していた。また前記の写真撮影の点についても、右、甲野、乙山らは、その際の原告の態度は一生懸命になつていた、その時原告が使つていたカメラはパツと光の出るものであつたし、それ以前にも原告から裸体(甲野)あるいは半裸体(乙山)の姿を写真に撮られたことがあり、甲野の裸体姿の写真あるいは同女の性交場面の写真を原告から見せられたことがある等供述していた。これら関係人らの各供述に照らすと、原告の前記供述は、明らかに事実に反すると思われるものや供述内容自体からも直ちに首肯できないものがあつて、その信用性について極めて疑わしいものであつたと考えられた。しかるに、原告は、昭和四九年四月三〇日午後一時ころから、札幌南警察署防犯課補導室において、前記の辰己光男から取調を受けた際においても、従前の供述を改めることなく、頑強に否認を説けていた。そこで、右取調に立ち会つていた同署巡査部長松井重夫は、主任捜査官でありかつ事件の総括責任者の立場にあつた同署防犯課長篠永一男にこれを報告し、あわせて取調継続についての指揮を求めた。右篠永は、これまでに報告を受けていた前記関係人らの供述等の捜査結果から、原告の容疑事実の証明はほぼ十分であるとの心証を抱いていたものの、事案の真相をより明らかにし、原告に自己の非を悟らせ再び犯行に走らせないようにするという理由から、やはり原告を説得して同人の自供を得る必要があると判断し同日午後四時三〇分ころ、右補導室において自ら原告に対する取調を行なつた。右取調において、篠永は、前記のような供述の食い違いについて、ある程度厳しい口調で、かつ理詰の尋問で原告を追究ママし、原告が、「全くそういう事実はない。」「俺は一八才未満の女性とは知らなかつた。乙山と面接もしていない。」などといつて否認を続けたが、右篠永は、なおも原告に対し、「大人は、少年が非行に走るという場合に、これを戒め導いてやるのが義務ではないか、それが逆にレスビアンをしたり、性交をしたり、そういうことを写真に撮つたりすることは善良な社会人としてやるべきことではないのではないか。君には娘や妹があるはずだが、君のようなことをされたらどう思うか。自分のことに置きかえてみてはどうか。」「君には理性や道義心はないのか、それでは動物と同じとは思わないか。」などと訴えて翻意を促したものの、原告において、「俺は他人がどうなつたつてかまわないんだ。仮に娘がそういうふうにされたつてなんとも思わん。」などと放言したり、しばしば黙秘を繰り返したりするばかりであつたが、同日午後四時五〇分ころ原告が椅子から立ち上るなり「俺はお前につばをかけられた。何も話したくない。取調をやめてくれ。」と言い出したため、右篠永らにおいて、もはやこれ以上の取調は不適当と考え、ほどなく、その日の取調を終えた。右取調の際の篠永の位置は、それまで前記辰己の座つていた机をはさんで原告の真向かいの席であり、篠永が取調をしている間、右補導室に出入りした者はなく、当時同室には前記辰己、松井の両名が捜査担当官として同席していただけであつた。右補導室については、部室の特殊性から外部からは見聞できない構造になつており、部内者においても取調中であることがわかれば出入りしないようにしていた。また、右篠永が私服から制服に着換えたのは、原告に対する取調を終えた後であり、右補導室西側に設けられたロツカーの裏においてであつた。

以上の事実が認められ、〈証拠判断省略〉。もつとも原告は、右篠永が原告に対し「お前のような奴は人間のつらをかぶつたけだものだ。」「お前のような奴は犬猫にも劣るけだものだ。」等といつた侮辱的言動を行なつたとするけれども、〈証拠〉中に右主張に沿う供述部分は、前記認定した事実、および〈証拠〉に照らしてたやすく信用できず、また右篠永において原告に対し故意につばを吐きかけたとの点については、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。

そこで、以上認定の事実関係に基づいて、右篠永による原告に対する公然侮辱の成否について検討するに、前記のように右篠永がある程度厳しい口調で原告を追及し、その際に「それでは動物と同じではないか。」といつた「動物云々」という言葉を発したことは、それだけを抽出してみると、原告の名誉感情を刺激する言動であつたと言えないこともないが、その違法性の有無については、事案の内容、捜査の経過、被疑者の態度、ならびに、右発言がなされるに至つた状況等を総合勘案して決すべきところ、前示のとおり捜査官である篠永らにおいて、原告に対する児童福祉法違反等の被疑事実についての取調中においてなされたものであること、右取調べに至るまで、原告は頑強に松永らの年齢の知情について否認の態度をとり続け、しかもその供述内容は前示関係人らの供述に照らし、到底納得しうるものではなかつたこと、そして、このような経過のすえ、右篠永において、捜査上および刑事政策上の理由から、なんとか原告を説得しようとする余り前記のようなやりとりの中で、右のような発言をなしたものである等の状況に照らすと、右篠永の発言は、これを必ずしも不当として非難することはできず、これをもつて同人において責められるべき点があつたと評することもできない。なお右発言がなされた当時、右補導室には捜査担当官として立ち会つていた前記辰己、松井のほかには誰もおらず、部屋の構造上からも、その他の者において、右取調状況を知りうる状態になかつたことが明らかであるから、公然性の要件にも欠けるものであつたという余地もなくはない。してみると右篠永において原告に対する公然侮辱という不法行為をなしたものと解することはできない。

二名誉毀損の成否について

(一)  請求原因(二)の事実のうち、昭和四九年五月一四日、原告が同項記載の児童福祉法違反の事実のみで起訴され、その他の被疑事実については不起訴処分となつたこと、右公訴提起に伴ない職権発動を促された札幌家庭裁判所裁判官において原告に対する勾留状の発付を行わなかつたため、同日原告は身柄を釈放されたこと、翌一五日札幌南警察署は道内各新聞社に対し原告の右起訴事実および不起訴事実に関する情報提供を行ない、その結果翌一六日の各新聞において原告主張のとおりの見出しでその内容が掲載され、道内各地に報道されたこと、以上の点については、いずれも当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、北海道警察広報規定によれば、警察署における広報業務担当者は、警察署副署長、次長と定められ、従つて、この種、報道機関に対する情報提供についても右所定の広報業務担当者によつてこれがなされることとなつていたが、札幌南警察署における実際上運用としては、各課課長の発案により、捜査担当官が報道関係メモを作成し、これについて、順次、課長・刑事担当次長・同署次長が点検補正したうえ、最終的に右次長においてその情報提供を是とした場合に、同人の手により右報道関係メモを次長室の応接セツトのそばにフアイルして置き、報道機関に自由に閲覧させる方法で、その取材の用に供していたこと、本件においてもかかる手続に従い、前記篠永が発案し、前記松井が別紙のとおりの報道関係メモを作成したうえ、これの「なお」以下につき、右篠永において、被告主張のとおりに加除訂正し、同署次長宍戸光雄の手によつて右フアイルにとじ込まれ、報道機関の閲覧に供する状態に置かれたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。しかしながら、右以外の方法による情報提供、すなわち、右篠永において、各新聞社の記者を同署に集め、別紙記載のとおりの発表をなしたとの事実は本件全証拠によつてもこれを認めることができない。ところで、右情報提供にかかる内容については、右のような事実関係のもとでは右篠永が加除訂正した後の記載内容によるべきものであると考えられるが、いずれにせよ、右は、原告の犯罪事実に関するものであつて、同人の名誉と信用を害すべき性質のものであることは明らかであるから、原告の本訴請求の当否を判断するにあたつては、さらに本件における情報の提供に関与した右篠永のかかる、点検、補正等の行為について、違法性、ならびに、故意、過失が認められるか否かに関し検討する。

(二)  そこで進んで、被告の抗弁について審究する。

1  まず、〈証拠〉によれば、札幌南警察署において、原告に対し、その嫌疑があるものとして立件し、捜査を遂げたうえ事件送致した被疑事実の具体的内容は、(1)前記甲野をしてA相手に淫行させたとの児童福祉法違反、(2)右甲野と性行為をなしたとの北海道青少年保護育成条例違反、(3)前記乙山と性行為をなしたとの同条例違反、(4)右甲野、乙山らをしていわゆるレスビアンと称する性交類似行為をさせたとの児童福祉法違反、(5)右甲野に売春させる目的で、前記Aに対し「若い女を世話するから俺に一万円渡してくれ」と申し向けて、同女を紹介したほか、前記Fにも同目的で同女を紹介しもつて、売春の周旋をしたとの売春防止法違反の各事実であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。してみると、前記の情報提供にかかる内容は、その原告に関する部分において、いずれも原告の右犯罪行為あるいはその具体的態様を述べたものであることが明らかである。ところで、右各被疑事実のうち、右(4)の乙山を被害者とする部分を除き、いずれも不起訴処分となつたことは前記のとおりであるから、右事実を除く各事実は、未だ公訴提起のされざる人の犯罪行為に関するものであり、また、右起訴事実については裁判公開の原則、およびその事案の内容からみて、これを公衆の批判にさらすことが公共の利益増進に役立つものといえるから、以上、いずれも公共の利害に関する事実と認めることができる。この点に関し、原告は、捜査機関において被疑者の不起訴事実を公表することは一切許されない旨主張するが不起訴事実であつても、未だ公訴提起のされざる人の犯罪行為にあたることは明らかであり、右不起訴事実についても、爾後起訴の可能性が法律上全くありえないという場合はさておき、その他の場合においては、捜査機関による公表が一切許されないというものではないと考えられるから、右主張は独自の見解であつて採用することができない。

2  そこで、検討をすすめるに、前示のとおり、情報提供の方法は従前の慣行と方法に従つたものであるうえ、発表された内容、および、その表現においても、特段原告に対する敵意や侮辱的な態度を含んでいるものとは認め難く、公衆に批判の材料を提供するため、報道機関の取材に資する趣旨であつたことが認められるから、証人篠永の「本件は非常に社会的な反響が大きいということ、それから青少年の健全育成という立場からこのような年少者をもつ親に対して一大警鐘を鳴らす必要がある、更にこの事案を企図する者に対する警告、こういつたものも是非しなければならないという判断に立つて報道に踏み切つたわけです。」旨の証言はこれを首肯することができる。

なお原告は、右篠永が、関係機関の原告に対する処分結果が軽すぎることに憤慨し、その私憤から本件における発表を行なつたと主張するが、本件全証拠によつても、前記の情報提供をなす以前において篠永が検察官による処分結果を知つていたと認めるに足る証拠はなく、かえつて、〈証拠〉によれば、同人が、起訴の翌日まで発表を控えていたのは、関連被疑者による罪証湮滅工作や、これらの者の逃亡がないようにするためであつたとみられ、原告の釈放により、その必要がなくなつたため、右の発表に踏み切つたものと認められる。以上の事実関係に従えば、むしろ、右篠永において、専ら公益を図る目的を有していたものと認めることができ、他にこれを動かすに足る証拠はない。

3  次に、前示のとおり、右内容は原告の前記(二)の1の(1)ないし(5)の各犯罪行為に関するものであつたところ、〈証拠〉によれば、右各事実は、いずれも合理的な疑いを容れない程度にまで証明が尽されているものと認めることができ、〈証拠判断省略〉、右各事実は、いずれも真実であつたということができる。ところで、前記情報提供にかかる報道関係メモの事実摘示の中には「その状況(淫行あるいはレスビアンのこと)を写真撮影し、これを種に脅迫し」との記載部分があり、右は犯行に関する重大な情状事実、あるいは、犯行態様を表現するものとして原告の信用、名誉に関わる事実であることが明らかであるから、この点について、その真偽を判断するに、原告において、右甲野の裸体姿および性交の場面を写真撮影し、それを現像して同女らに見せていたことは、前示のとおり関係人らのほぼ一致した供述によりこれを認めることができ、さらに、これらの事実と前記の甲野、乙山の各供述により認められる同女らの性交類似行為を写真撮影をしていた際の原告は一生懸命になつていた、その時使用していたカメラはシヤツターを切ると光の出るものであつたとの事実を総合すると、右写真撮影についても単に撮る真似をしたとか、はじめからフイルムが入つていなかつたとは到底認められず、かえつて真実その行為があつたものと推認できるところであり、〈証拠判断省略〉。又〈証拠〉によれば、右甲野において、捜査官に対し、「この外成田(原告のこと)から脅されていたこともあります。」「この写真(同女らの性交や性交類似行為の写真のこと)を種に私が成田との交際を断ろうとすると、写真を学校や友達にばらまいてやると言つておりました。」「このようなことをしたのは私達が好きでやつたわけではなく、私が成田とセツクスをする時、必ず私の裸の写真を撮られておりましたので、断ると後で、いやな思いをさせられたら困るので言われるままにレスビアンをやつたのです。」と供述していることが明らかであり、又、〈証拠〉によれば、原告は、その頃、乙山と肉体関係をした前記Dにそのことで因縁をつけ、同人から一万円を脅し取つたことがあること、また甲野と付き合つていたGに同女の性交場面や裸体姿の写真を示したうえ、「俺と花子はこの様な関係なんだ。G、お前花子から手を引け。」と言つたことがあること、以上の事実が認められ、〈証拠判断省略〉。してみると、右甲野の供述は、右のような原告の当時の生活態度に符合するものであつて、これを信用することができ、同女の右供述によれば、前記の「これを種に脅迫し」との記載部分は評価を含むけれども事実に合致するものであつたというべきである。そして、以上によれば、前記情報提供にかかる内容は、主要部分を構成する、原告の犯罪事実およびその情状に重大な関りのある事実について、全て真実であつたと解することができる。なお、原告は、個々の記載部分をとらえて、それが真実ではない、あるいは、著しく誤解を招く表現であると主張するが、その真偽について既に判断した部分(「これを種に脅迫し」「一回一万円の契約で会社社長ほか数名に対し売春の周旋をしていた」との記載)を除いたその余の各記載部分は、いずれも、捜査の経過(捜査の端緒、事件送致)や犯行に至る経緯について概略的に述べたものであることが明らかであるから、先に述べた主要部分において、真実である以上、右記載部分の真偽あるいは表現の当否が、原告に対する名誉毀損の成否に消長を来たすものとは認められないのみならず、「暴力団を含むグループ」との記載については、それが用いられている文脈からみて、客観的にも、捜査の端緒についての記述と認められ、これが真実であつたことは前記一において認定したとおりである。さらに、「市内で知り合つた一八才未満の女子高校生」「言葉たくみに接近し」「市内モーテル等に連れ込み」の各記載についても〈証拠〉によれば、右乙山は原告から「(モーテルにとの趣旨)入ろう」と言われ、同女がこれに返事をする暇もないまま、原告において、同女を同乗させていた自動車をモーテルに入れ、原告と最初に肉体関係をもつたことが認められ、右のような状況に、前記犯罪行為のもつ非道徳性、さらには右記載部分を含めた全体が簡潔に要約して記述されていること等に照らすと、右記載をもつて不当な表現ということはできない。以上のとおり、情報提供にかかる内容は全て真実であり、かつ格別不当とすべき表現方法も認められず、その提供を受けた報道機関において、原告を暴力団であるとする記事を掲載したり、又、右公表内容においては使用されていなかつた「女高生三人食いもの一人逮捕、一二人検挙」「女高生三人食いもの暴力団員ら二人“客”ら一〇人送致」等の語句を用いた見出しで報道した点については、報道機関の独自の方針、あるいは、自主的な判断によるものというほかなく、本件の情報提供との間に相当因果関係を肯定することはできない。

(三)  以上、1ないし3において述べたところによれば、前記篠永の各行為には違法性がなかつたものというべきであり、また、右公表内容について仮に、若干真実でない部分があつたとみられるとしても、〈証拠〉により認められる、捜査機関において原告の弁解を裏付ける事実についても極力捜査をしたが、これに沿う証拠は認められなかつたとの事実に照らせば、右篠永一男においてこれを真実だと信ずるについて相当な理由があり、しかもそれが前示のような周到な捜査結果に基づくものとみられる以上、同人が右各行為をなすについて、故意又は過失があつたと結論することもできない。

五してみると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(稲垣喬 増山宏 高橋勝男)

別紙

札幌市内の女子高校生が暴力団構成員を含むグループに売春させられているとの聞込を得、昨年一二月から内偵していたが、去る四月二三日売防法、児福法、道青少年保護育成条例違反で一名を逮捕、一二名を児福法、道青少年保護育成条例違反等で取調べ五月一四日書類送致した。

一、逮捕被疑者

(1) 札幌市南区石山一一八番地

ブロツク業 成田常忠 三八才

売春防止法、児童福祉法、北海道青少年保護育成条例違反で四月二三日自宅で逮捕

(2)(3) 省略

事件の内容

被疑者成田常忠は市内で知り合つた一八才未満の女子高校生にドライブしよう等言葉たくみに接近し、四八年三月上旬ごろから同年五月中旬ごろの間市内モーテル等に連れ込み、複数又は単独で淫行又は女子高校生同志にレスビアンをさせ、その状況を写真撮影し、これを種に脅迫し、淫行を重ね、更に一回一万円等の契約で会社社長ほか数名に対し売春の周旋をしていた。又Hは昨年二月から三月の間女子高校生を自分のアパートに連れ込み数一〇回にわたつて淫行を重ねたうえ仲間の土工夫等数名に対し紹介して淫行をさせていたもの。

なお、被害女子高校生は被疑者の言葉たくみにあやつられ全く被害意識もなく、非行を重ねていたもので、男の甘言に乗せられず又保護者には細心の注意をするように呼びかけている。

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